なでしこたちの活躍で始まったロンドンオリンピック。選手たちの熱くそしてさわやかな戦いぶりに、多くの国民は心を躍らされました。幸福感や満足感さえおぼえた人もいるかもしれません。そしてこの夏、熱き戦いがここ日本でも行われていました。消費税増税問題についてです。こちらについて我が国の国民はどのように感じたでしょうか。納得、驚き、疑問、憤慨、諦め、etc。
 消費税の税率を引き上げる為には、解決しなければならない重要事項があります。一般に低所得者は、高所得者よりも所得に占める消費の割合が高いと考えられています。したがって消費税の税率がアップすると、低所得者の消費税の負担率もアップしてしまうのです。これを「所得に対する逆進性」といいます。社会保障の財源の確保はできましたが、同時に国民の生活を圧迫してしまうということになるならばどうでしょう。
 オリンピック発祥の地、ギリシャ南部の地中海に浮かぶクレタ島には、迷宮(ラビリントス)があったといいます。アテナイ王子テーセウスは、目的を達するため、脱出不可能と言われていた敵国の宮殿に入り込みました。もしかしたら我が国も、消費税増税という迷宮に入り込んでしまったのではないでしょうか。その出口は見えているのでしょうか。

 今夏のオリンピックの舞台となったイギリスの消費税率は、何と20%(2012.1財務省)です。したがって、すべてのものに一律20%を課税すると、大変なことになってしまいます。そこで生活必需品は税率0%、家庭用電力等は税率5%といった複数税率を採用し、課税の公平を図っています。これは消費税の逆進性を緩和する一つの方法ですが、多くの問題を抱えています。
 同様の制度が我が国に導入された場合どうでしょうか。まず生活必需品かどうかの区別がとても難しいので、生産者がものづくりをする際の足かせになってしまうのではないでしょうか。税負担の軽減を求め、管轄省庁に対する陳情が増えてしまうかもしれません。課税の均衡を保つため、簡易課税制度については、事業区分とみなし仕入率の細分化をする必要が生じ、それに伴い事務処理が複雑になってしまうならば、簡易課税ではなくなってしまいます。
 消費税の逆進性を緩和するもうひとつの方法として、所得に応じて税額控除や現金給付を行うという給付付き税額控除があります。こちらを採用する為には、正確な所得の把握が不可欠となりますので、いわゆるマイナンバー制度を採用する必要が生じます。しかし莫大な運用コストをどうするのか、プライバシー侵害への対応は万全かなど、解決すべき問題は少なくありません。

 アナティ王子は、迷宮に入る前に、敵国の王の娘アリアドネから受け取った赤い糸をその入り口に結び、目的を果たした後、その糸を辿り無事脱出に成功しました。そして二人は結ばれ、駆け落ちしたそうです。消費税増税については、クリアーすべき課題が山積です。神話のように救世主はなかなか現れないものですが、議論を重ね、解決の糸口を探り、今よりも多くの国民が納得した後に、法律が施行されることを期待しています。

2012.08.01
moritax.com-editor 税務コラム