ニーチェの文章をわかりやすく訳した本が話題になっており、多くの書店で彼の著書に関する特設コーナーが設けられています。処女作「悲劇の誕生」は代表作の一つで、ギリシャ悲劇の成立と盛衰について、ギリシャの神アポロンに理性や秩序を象徴させ、その対照的な存在として、ディオニュソスに陶酔や激情を象徴させることにより解説しています。
 アポロンは、あらゆる要素を兼ね備えた理想的な神。世界遺産に登録されているデルポイの遺跡には、アポロンの神託所がありました。そこでは、人々の運命のみならず国家の運命をも左右する多くの神託があったそうです。一方ディオニュソスは、人々を陶酔の世界へといざなう葡萄酒と酩酊の神。性格は自由奔放、野性的かつ激情的です。もしもこんなひとが家族にいたならば・・・・。

 激情的な家族がいなくても、「相続」が始まると「家族が争族」になってしまうことがあります。そのようなことにならないように将来の家族のことを思い、遺言を書くひとが増えています。遺言は遺産分割の際の一般的な基準である法定相続に優先するので、遺言者の意志を家族に託すことができます。

遺言にはいくつかの方式がありますが、法律上の不備や内容不明などにより、遺言そのものが無効になってしまうことがあります。またその執行がスムーズにいかない場合があります。そこでそのようなことのないように、遺言の作成から保管、執行までの一切を第三者に任せてしまう方法があります。これを遺言信託といいます。
 遺言信託においては通常、公正証書遺言を作成します。法律のプロである公証人が作成しますので、形式不備等により遺言が無効になることはありません。また原本は公証人役場で保管されますので、紛失、偽造の心配もありません。さらに迅速な執行が可能となります。公正証書遺言は、最も優れた信頼性の高い遺言であると言われています。

 遺言は、アポロンの神託のように従うべき絶対的なものではありません。しかし遺言者の熱い思いが込められたメッセージは、悲劇的な相続になることを未然に防ぎ、家族を円満な方向へと導く道標となるはずです。

2010.10.01
moritax.com-editor 税務コラム